配偶者居住権の解説と相続税評価について
■「配偶者(短期)居住権」の創設
平成30年7月に相続法に大きな改正がありました。改正点は多岐にわたりますが、その中でも特に重要な改正点の一つといわれているのが、「配偶者(短期)居住権」の創設です。
「配偶者(短期)居住権」とは、簡単に説明すると、被相続人(故人のこと)が所有していた建物(自宅など)に居住していた配偶者が、相続開始後もその建物に無償で住み続けることができるという権利をいいます。
これまでの相続法では、被相続人の配偶者は、遺産分割の関係で住み慣れた住居を明渡すか売却せざるを得なかったり、自宅を相続した結果、生活費となる現金をほとんど手にすることができなかったりするという問題がありました。このような問題を背景に、残された被相続人の配偶者が老後も安心して過ごすことができるように、2020年(令和2年)4月1日から「(長期の)配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の2つが配偶者に認められるとという法改正がなされました。
■(長期の)配偶者居住権とは
配偶者居住権は、長期的な居住権を保障するものです。これは、被相続人の配偶者が被相続人と同居していた自宅の所有権を相続しない場合でも、「居住権」を遺産分割等で取得すれば、終身又は一定期間、無償で自宅に住み続けることができる権利のことです(改正民法1028条1項)。
例えば、相続人が妻と子ども(合計2人)で、相続財産が自宅(1,000万円)と預貯金(1,500万円)のケースを考えてみましょう。この場合、相続分は「妻の相続分」:「子どもの相続分」=1:1(各々1,250万円)となります。
妻が自宅(1,000万円)を単独で相続すると、預貯金は250万円することになります。しかしこの預貯金だけでは、今後の生活を暮らしていくには心もとなく、安心して生活を送ることはできません。
そこで、配偶者居住権として評価される額(例えば500万円)と、預貯金750万円を配偶者が相続し、子どもが負担付建物所有権(500万円)と預貯金750万円を相続するという方法で遺産分割をすることにより、配偶者は自宅に住みながら十分な生活費を確保することができます。ここに大きなメリットがあります。
配偶者居住権は配偶者であれば当然に認められるというわけではなく、遺贈や遺産分割協議などによって取得できる権利です。そのため、相続対策としては、確実に配偶者居住権を取得できるよう遺言書に明記しておくことが大切です。遺言書がない場合は、相続人同士で配偶者居住権を設定するかどうかを話し合います。
■配偶者短期居住権
仮に配偶者に上記居住権が認められなかったとしても、短期的な居住権は当然に認められているので、相続開始後(被相続人が亡くなった時)でも直ちに自宅を明け渡す必要はありません。
これを配偶者短期居住権といい、
・遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6ヵ月を経過する日のいずれか遅い日
または
・それ以外の場合(建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合など)は、建物所有者から配偶者短期居住権の消滅請求を受けた日から6ヵ月を経過する日
までは無償で住み続けることができます(改正民法1037条1項)。
このように配偶者は少なくとも6ヵ月は無償で住み続けることができますが、この権利が認められるためには、相続開始時に相続の対象となる自宅に住んでいることが条件となります。
■相続税評価方法
(長期の)配偶者居住権は相続税の課税対象となるため、適切に評価することが求められます(なお、短期居住権は相続税の課税対象となりません)。
上記のように配偶者居住権は建物を利用する権利ですが、建物利用時には必然的に敷地も利用することになるため、相続税の評価の際は、敷地利用権も合わせて評価します。
以下、少し複雑ですが、相続税の評価方法について具体的に見ていきましょう。
居住権は、建物の残存耐用年数や配偶者の平均余命などを考慮して、建物の時価及びその建物に後どれくらい住めるのかを数値で表したものをもとに評価していきます。
●建物(配偶者居住権及び配偶者居住権が設定された建物(以下、「居住建物」という)の所有権(居住建物所有権))
①【配偶者居住権】=〈建物の相続税評価額〉ー〈建物の相続税評価額〉×(〈残存耐用年数〉ー〈存続年数〉)/〈残存耐用年数〉×〈存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率〉
②【居住建物所有権】=〈建物の相続税評価額〉ー〈①の価額〉
※1 残存耐用年数:法定耐用年数(住宅用)×1.5ー築年数
「耐用年数表」(https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensuhyo.html)
※2 存続年数は次の(1)又は(2)の年数をいう(「平成30年簡易生命表の概況」(厚労省)参照)
(1)配偶者居住権の存続期間が終身の場合は配偶者の平均余命年数
(2)(1)以外の場合、遺産分割協議等により定められた存続期間の年数(配偶者の平均余命年数が上限)
※3 「存続耐用年数」又は「存続耐用年数ー存続年数」がマイナスとなる場合は「0」とする
※4 民法の法定利率は2020年(令和2年)4月1日より3%となり、その後の3年ごとに見直される(改正民法404条参照)
●土地(敷地利用権)
③【配偶者居住権に基づく居住建物の敷地利用権】=〈土地等の相続税評価額〉ー〈土地等の相続税評価額〉×〈存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率〉
④【居住建物の敷地利用権】=〈土地等の相続税評価額〉ー〈③の価額〉
AMSconsulting株式会社では、立川市、武蔵野市、杉並区、世田谷区を中心とした東京都全域のエリアで、「相続」に関するご相談を承っております。「相続」に関してお困りのことがございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。