不動産を活用した相続対策
相続税の節税対策の中でも節税効果が大きい対策が不動産を使ったものです。賃貸マンションやアパートの建築、購入で不動産賃貸を行い、大幅な節税が可能となります。第三者に賃貸する土地や建物は相続税評価額が大きく下がる計算方法になっています。例えば現金1億円は相続発生時も1億円の評価額ですが、その現金で賃貸アパートを建築すると相続発生時の評価額は4,200万円になるのです。「不動産を購入すれば相続対策になる」とよく耳にしますが、これは「時価と相続税評価額に差が生じる」ためです。土地や建物は本来の時価よりも相続税評価額が低くなる評価方法が税法で定められているのです。現金は相続が起きても評価額は1億円のままです。土地は相続が起きると国税庁が定める相続税路線価という指標にもとづいて計算します。この路線価が最初から時価の8割くらいに設定されているため、自己利用の土地を保有しているだけでも現金と比べて2割お得なのです。さらに土地の上に賃貸用の建物(貸家、賃貸マンション等)がある場合には、貸家建付地といって自己利用の状況よりもさらに2割程度減額されます。この結果、土地の本来の時価と比べて相続税評価額が約4割も下がるのです。建物は相続が起きると固定資産税評価額にもとづいて計算します。この固定資産税評価額は建築額の6割~7割程度になるため、自己利用の建物を購入するだけで現金と比べて3割~4割お得になります。さらに建物も賃貸することで貸家の評価といって自己利用の状況よりもさらに3割減額されます。この結果、建物の本来の時価と比べて相続税評価額が約5割も下がるのです。不動産は金額が高額であることから相続税の節税対策のためだけに購入してしまい、後で賃貸の空室が増えてしまい相続税の節税はできたけれども、不動産の資産価値そのものが下がってしまっては元も子もないため注意が必要です。
ワンルームマンション購入も節税効果が高いものとされています。利便性のよい場所にある賃貸用ワンルームマンション(1部屋1,000万円~2,500万円程度)を購入する対策です。賃貸用ワンルームマンションは時価と相続税評価額の差が大きい財産ですので相続税の節税効果が大きいのです。賃貸用ワンルームマンションを購入すると、相続税評価額が時価の1/3程度になるため現金等の金融資産を所有しているよりもかなり有利となります。ワンルームマンションの場合、一棟の建物を所有する場合と比べて一棟の建物の中の1部屋という位置づけですのでその土地を所有している権利の割合が薄くなり相続税の評価額が大きく減額されるのです。またワンルームマンションであれば、1部屋ずつの所有権となりますので相続人が複数いる際に1棟の建物を相続するよりも遺産分割が行いやすい点もメリットの1つです。駅近の物件や利便性のよい物件を選ばなければ将来の空室リスクが生じます。
また、タワーマンションの高層階の部屋を購入して相続税を大きく節税する方法があります。ポイントは「高層階」を購入する点にあります。タワーマンションの相続税評価は高層階でも低層階でも同じになります。これはマンションの評価の基礎となる固定資産税評価額に高層階のプレミアム価格が上乗せされないことに関係しています。タワーマンション節税については上記のように時価と相続税評価額の乖離が大きくなりすぎていて、国税庁側も評価方針の見直しを始めており、平成30年4月1日から新たに課税対象となったマンションは高層階と低層階の固定資産税の算定方法が変更となり、高層階がやや割高に低層階がやや割安になっています。相続税評価額の算定方法には変更はありません。今後も引き続き高層階の評価方法が変わる可能性がありますので最新の情報への注意が必要です。
さらに、郊外から都心に引っ越しで小規模宅地等の特例効果を活用する方法もあります。自宅が路線価があまり高くない郊外に住んでいる人が都心部等の路線価が高い地域に引っ越しを行い、小規模宅地等の特例を最大限に生かして相続税を節税する方法です。故人の自宅について小規模宅地等の特例が適用できる場合330㎡まで80%も土地の評価を減額できるため、なるべく1㎡あたりの路線価が高い地域に引っ越すことで特例の効果を最大限に活かすことができるのです。そもそも小規模宅地等の特例が適用できる要件を満たしていないと特例が適用できないため、要件を再度確認しておくとよいでしょう。本対策で紹介している小規模宅地等の特例は自宅を守るための特例で主にの3つの要件(①配偶者が相続すること、②同居している相続人が相続すること、③配偶者も同居人もいない場合に、借家に3年以上住んでいる相続人が相続すること(通称:家なき子))のいずれかに該当すれば適用対象となります。
最後に、500㎡以上の土地(三大都市圏)は地積規模の大きな宅地の評価で大幅減額が可能となります。三大都市圏では500㎡以上、三大都市圏以外の地域の場合は1,000㎡以上の土地を所有している場合、一定の要件を満たせば「地積規模の大きな宅地の評価」という、土地の評価を大きく減額できる評価方法が選択可能です。この地積規模の大きな宅地の評価が適用できると、評価額が約20%以上も減額されます。この地積規模の大きな宅地の評価が使えるかどうかで相続税への影響も大きくなります。適用条件としては、①市街化調整区域内の土地、②工業専用地域に指定されている地域内の土地、③指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域内の土地、④財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地、のこれら4つに該当しないことが条件です。地積規模の大きな宅地の評価は、路線価×地積×規模格差補正率。で計算します。面積が広くなればなるほど評価が低くなる計算式になっていますが、これは広すぎる土地であれば一般の方が購入することは難しく、また不動産業者が購入したとしてもそのまま利用できず土地の中に道路を入れたりする負担があることから、通常の宅地よりも大きく評価を下げることができる規定が設けられているのです。地積が条件にギリギリ届いていない場合や、用途地域が適用除外地域に跨っている場合など、ご自身で判断が難しいケースもあります。その場合は専門家へ相談に行くようにしましょう。
不動産を活用した相続対策は、節税効果が大きい反面、投資額も大きくなりますので相続税の節税だけにとらわれずに実施の有無を検討する必要があります。例えばバブルの時期は不動産の時価が高騰し相続税負担が重くなったことから、多くの資産家が借金をして賃貸マンションやアパートを建築して相続税対策をすることが流行りました。しかしその後バブルが崩壊し相続税対策で建築した賃貸マンションやアパートに空室が目立つケースも多くなり、相続税対策はできたものの借金返済が大変だという声も耳にします。もちろん当時から賃貸の適した立地かどうかを見極めて対策を実施した方は相続税を節税しながら不動産収入を獲得できるというメリットを活かせています。相続税の節税も重要ですが、大きな投資を行う前には資産価値そのものにも目を向けてから実施していくことが望まれます。
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