生前贈与を活用した相続対策
生前贈与を活用した相続税対策は最も人気がありお手軽な対策ですので多くの方が実行しています。生前贈与といっても、様々な方法があります。
生前贈与については年間110万円以内であれば贈与税がかからない基礎控除枠があるため、子や孫に年間110万円以内の金額の生前贈与を実行することで毎年贈与した分が非課税となります。生前贈与の方法は現金渡しでも預金振込どちらでも大丈夫ですが預金振込の方が証拠が残るため後で税務署から指摘されたときにも贈与の事実を証明しやすいです。この対策は早くから実施することで節税効果が高まるのが特徴です。特にスタートする年齢に制限はありませんが、10年、20年のスパンで実施していくのであれば60歳頃からスタートするとよいでしょう。例えば毎年110万円を子2人に実施した場合、1年間で220万円の資産を無税で移転でき、さらに10年やれば2,200万円、20年やれば4,400万円と毎年の贈与を積み重ねていくことで無税で移転できる額が増えていきます。注意点は、毎年贈与契約書を作成する必要があり、税務署に対して贈与の事実を証明するためにも贈与の都度、贈与契約書の作成が望まれます。通帳・印鑑・キャッシュカードも渡して自由に使わせなければならず、よくあるのが子や孫名義の口座にお金を振り込んで贈与したものの、子や孫名義の通帳をすべて親が管理しているようなケースです。このような場合、税務署はただ名義を変えただけで実質的な支配・管理は贈与者が行っているとして、贈与の成立を否定して相続税を課税してくることがあるため注意が必要です。また、相続が発生する前3年内に相続人に贈与を実施していた場合、相続税の財産に全て加算しなければならないという決まりがあります。つまり亡くなる前に慌てて相続人に贈与をしても全て相続税にカウントされるため節税効果がないのです。
財産が2億円以上あるような資産家の方は110万円以上の贈与を行い贈与税を支払うことが有利になるケースもあります。例えば相続税が30%で課税される人は、30%以下の贈与税率であれば贈与税を支払ってでも生前贈与を進めた方が有利となるのです。将来の相続税負担が大きい財産額が2億円以上あるような資産家の方に適した対策ですので、本来は相続税負担率がさほど高くないにも関わらず無理をして贈与税を支払いながら贈与を行うと不利になるケースもあるため注意が必要です。対策実施前には税理士に相談して、キャッシュフローの計画や税額のシミュレーションを行った上で実行するようにしましょう。
また、相続時精算課税制度を利用して賃貸不動産を子や孫に贈与して、賃料収入の蓄積を防ぐ相続対策もあります。将来相続税が発生する方はなるべく相続発生時に財産を減らしておいた方が相続税が少なくて済みますが、定期的な賃料収入があると相続財産が増えていきます。そこで収益不動産を贈与することで賃料収入が子や孫に入ることになり、祖父母や親の相続財産の蓄積を防ぎながら財産を子や孫のものにすることが可能となるのです。相続時精算課税制度は60歳以上の祖父母や親から20歳以上の子や孫への贈与については2,500万円まで贈与税がかからないという特例です。相続時精算課税制度は2,500万円までの特別控除ですので、収益不動産の土地と建物を両方贈与することが難しい場合には、建物のみを贈与することが一般的です。建物を贈与する際の建物評価は固定資産税評価額で計算しますので、多くのケースでは2,500万円以内におさまるでしょう。賃料収入は建物の名義人に帰属しますので贈与後に子や孫に賃貸人変更を行い、賃料収入が振り込まれる口座を変更しましょう。また賃料収入が子や孫に振り込まれるようになった後は確定申告も必要になりますので忘れないようにしましょう。一度相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与(年間110万円の控除を利用した生前贈与)ができなくなってしまうため注意が必要です。今後は生前贈与を利用した相続対策を行わないという場合にのみ利用を検討するようにしましょう。また、従来は建物も土地も同じ人が所有していたので土地は貸家建付地の評価でしたが、建物を子や孫に贈与すると土地が自用地の評価になり相続税が増加します。賃料収入(税引後)と相続税の増加分の両方を考慮することが必要です。
そして、教育資金の一括贈与特例にもとづき信託銀行等の金融機関が取り扱う教育資金贈与信託を活用して、子や孫に1,500万円までの範囲内で教育費の一括贈与を行う方法があります。教育資金に使うためであれば金融機関のサービスを利用することで一括で1,500万円まで贈与することができます。例えばこれから学費がかかるお孫さんがいる祖父母がこの特例を使って教育資金の援助を行うと1,500万円まで一括で贈与をしても贈与税が無税になるためメリットがあります。贈与した後の資金が教育資金名目でしか利用できなくなるため、財産を贈与する側からすると無駄遣い等の心配がなく安心して贈与ができる制度です。また学校関係は1,500万円までの非課税枠がありますが、塾な習い事といった学校以外の教育費でも500万円まで利用できる非課税枠があるのも特徴です。この特例ができる前からも、子や孫の教育費を必要なときに、その都度贈与する場合には贈与税は非課税でした。この特例は「一括」で将来の教育費を前渡しできる点が特徴ですので、その都度贈与を検討している方は特例を利用しなくても大丈夫です。
さらに、おしどり贈与の特例を利用して配偶者に自宅を2,110万円分まで贈与する方法もあります。おしどり贈与の特例とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の贈与又は居住用不動産を取得するための資金の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで贈与税が無税になる特例です。この特例を利用するための適用要件は主に3つ(①夫婦の婚姻期間が20年以上であること、②居住用不動産の贈与、又は居住用不動産を購入するための資金の贈与であること、③贈与を受けた翌年の3月15日までに実際にそこに住み、そして住み続けること)です。この制度は、20年間以上の婚姻関係にある夫婦であれば利用しやすい制度です。2,110万円分まで無税で自宅が贈与できますので相続税の節税にもなり、かつ配偶者に感謝の気持ちを示すこともできますので将来相続税がかかる方は利用を検討してみるとよいでしょう。注意点は、 長年連れ添った夫婦に自宅又は自宅の購入資金について基礎控除と合わせて2,110万円まで贈与税がかからず贈与ができる規定です。ただお金を渡しただけでは贈与税がかかってしまうのできちんと上記の要件を充たすように注意が必要です。 贈与税がかからないとしても贈与税の申告書の提出をする必要があります。また、現在お住まいの自宅を贈与する場合は、節税だけを考えると、通常相続時は小規模宅地等の特例が使用出来ますので、本制度を使用して贈与する際の諸費用を考慮すると、節税効果は薄くなります。配偶者が既に多くの財産を保有している場合にはおしどり贈与で財産を更に増やすと二次相続の負担が過大になってしまいます。二次相続まで考えておしどり贈与を実行するかどうかを決めましょう。
生前贈与は利用しやすい対策ですので多くの方が実施されていますが、誤った方法で生前贈与をしてしまうと後々税務署から指摘を受けて思わぬ税金を支払わなければならない可能性があります。特に贈与をしたのであれば贈与をした側は贈与した財産の管理を行ってはいけません。通帳の管理等を贈与者側で実施してしまうと、結局贈与していないことと同じとみなされてしまうからです。また生前贈与を実施し過ぎて老後の生活資金が大変になってしまっては本末転倒です。生前贈与を実施するのであれば計画的に行うようにしましょう。
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